- ここは中野区にある哲学堂公園だよ。
- 哲理門をくぐったら精神修養のはじまり。
- この門は妖怪門とも言われていてさ。
- 右に天狗像。
- 左に幽霊像が置かれてるんだ。
- 妖怪とか、幽霊とかってさ。
- 外国から来た人も怖がるのかな?
- 日本人しか襲わない妖怪とかいるよね?
- 外国にはドラキュラとか、狼男がおるやんか。
- あれは作り話じゃん。
- 妖怪だって迷信やろ?
- 迷信はさ、戦国時代を舞台に、
- 江戸時代の人が創作したものが多いんだってさ。
- 江戸時代の人はそれを物語として楽しんでた。
- 迷信って作り話なん?
- 明治時代以降…、
- なぜかそれが実話のように語り継がれて、
- 大正時代には迷信に縛られる人が増えてさ。
- それが教育の妨げにもなってたんだって。
- なんでも神様のせいにしてた?
- でも、火のないところに煙は立たないって言うじゃん?
- 明治時代に…、
- その問題をなんとかしようとした人がいたんだよ。
- それが、この公園を作った…、
- 井上円了(いのうええんりょう)。
- 江戸時代から大正時代まで生きた、哲学者だよ。
- なにをしたの?
- 日本人の心にある妖怪を、
- 科学的に解明して、迷信打破していったんだ。
- 例えば、どんなの?
- んーと…、
- コックリさんの仕組みも科学的に解明したよ。
- コックリさんって幽霊の仕業じゃないんや?
- 狐狗狸さんって書くから、
- キツネとかタヌキのしわざか思った。
- コックリさんは、
- 元はテーブルターニングと言って、
- 無意識に指が動いてしまう潜在意識を使った遊びだよ。
- 1884年にアメリカから伝わってきてから、
- 日本ではコックリさんって名前で流行したんだ。
- この公園、哲学者の像も多いけど…、
- 妖怪だらけやな。
- 円了は妖怪博士と呼ばれてたからね。
- その妖怪博士は、また…、
- なんで迷信打破を始めようと思ったん?
- 井上円了は、
- 東洋大学の元になった哲学館という大学を、
- つくったんだけど、
- ある事件をキッカケに辞めたんだ。
- なんの事件?
- 1902年、哲学館事件。
- 当時、無試験で教員になれたのは、
- 国立大学を出た人だけだったんだけど。
- 私立大学の卒業生でも、
- 無試験で教員になれるように主張してたんだ。
- でも、私立の哲学館の卒業試験で、
- 動機が善ならば、弑逆(しいぎゃく)も許されるのか?
- という内容があったのが問題になったんだ。
- そもそも漢字が読めないよ。
- しいぎゃくってなに?
- 自分よりも目上の人を殺す事。
- つまり、上司とか親とか、身分が上の人を殺す事ね。
- 殺人は殺人やろ?
- 正当防衛ならイイんじゃないの?
- そういう問題じゃなくてさ。
- 明治時代初期の日本の政治の解釈で言うと、
- 天皇も殺しても良いのか?という事になるんだよ。
- 哲学館の答えは「許される」だったから、
- 当時の文部省で問題視されたんだ。
- なんかさ、明治時代も江戸時代と似たようなもんだね。
- 身分制度が当たり前やった時代から、
- 急に民主主義どうぞってわけに行かないやろ?
- この哲学の考え方は、
- イギリス人のジョン・ヘンリー・ミュアヘッドの、
- 学説だったから、
- 日本の文部省の考え方には、
- イギリスからも反論があったんだ。
- さっき新宿のビル見えたよ。
- 歩いていける距離ちゃう?
- それじゃあ、次は新宿に行こうか。