- 今日は靖国神社に来たよ。
- ウチら、よう神社やらお寺やら来とるな。
- 日本の歴史は、神社とかお寺に残されてる事が多いからね。
- 私は神社より、お寺のほうが好きや。
- 神社は雰囲気怖くて、祟られそうや。
- 私はお寺よりも、神社のほうが入りやすいなあ。
- なんで?
- お寺は宗教っぽさが濃い気がする。
- ここから先は、信者や関係者以外ご遠慮くださいとか・・
- 書いてある所目立つじゃん?
- でも、家族のお墓はお寺にあるんでしょ?
- それじゃ、私は仏教徒?
- その理屈なら、
- チャペルのあった学校行ってた私は、キリスト教徒?
- 神社って、そういうの意識しなくていいじゃん?
- でも神社って宗教法人だよ?
- それじゃ、神社は何教になるわけ?
- 神社は神道(しんとう)ちゃうの?
- 神道って宗教?
- 神社は宗教法人だから、神道も宗教だよ。
- 神道は、仏教とかキリスト教みたいな経典あんの?
- 聖書とか、仏の教えみたいなやつ?
- そうそれ。
- 二拝二拍一拝。
- それ参拝ルールで、経典じゃないじゃん。
- 結局、神道ってなに?
- 昔からある、日本の土着の宗教。
- 土地とか自然とかを祀ってるんだよ。
- それが八百万(やおよろず)の神か。
- どの地域も必ず氏神(うじがみ)というのがあって、
- 土地を祀った神社があるんだよ。
- じゃあ靖国神社は、この辺の氏神になるの?
- ここらへんの氏神は築土神社だよ。
- え?ちょっと待った。
- 靖国神社は?
- 靖国神社は、土地を祀った神社じゃないよ。
- 何を祀ってるの?
- 戦死した人を祀ってるの。
- だれ?
- 誰ってわけじゃなくて、戦死した兵士全員。
- 何人くらい?
- 246万人以上。
- わかんなくなってきた。
- 江戸幕府から、明治時代に代わる時、
- 人が沢山死んだよね?
- 坂本龍馬とか?
- そうそう。
- 戊辰戦争とかね。
- その戦死者達を祀るために、明治時代に作られたんだよ。
- その時は、東京招魂社(しょうこんしゃ)って名前だった。
- ここで祀られてる人達を英霊(えいれい)って言うんだ。
- あのさ、神社で祀るものって、なんかルールとかあるの?
- 土地とか、山とか、海とか、人とかもだけど。
- 一応、日本の国土に関係するものだよね。
- つまり、日本あるところ、神社有りか。
- そう、神社は日本の歴史の痕跡だよ。
- どこ行っても神社ってあるよね。
- で、そんな日本という土地について、
- お祈りを捧げるのが神官のお仕事で、
- その神官達の頂点にいるのが、皇族で、天皇だよ。
- お祈りしとる?
- うちらが、毎日意識してなくても、
- 日本の国土のお祈りを、してるわけだよ。
- 神道は宗教だって言ったよね?
- うん。
- じゃあ、日本の隅々まで神道があるって事だよね?
- そうなるかな。
- それなら、仏教とかキリスト教は異教って事になる?
- その問題は、明治政府がかなり頭を悩ませたよ。
- 江戸幕府は仏教を優遇して、
- キリスト教を禁止してたんだけど。
- 明治政府は仏教もキリスト教も認める事にした。
- 最初は、キリスト教を禁止しようとしたけどね。
- 神道をどういう扱いにするか?迷ったんだ。
- 宗教としてしまうと、他の宗教と共存できない。
- だから「神道は宗教ではない」と定義した。
- それって、何の意味があんの?
- キリスト教徒も神社参拝できる。
- キリスト教徒が神社を参拝してどうすんの?
- 例えば、この靖国神社なんだけど。
- この神社では、戦没者を祀ってるから、
- 宗教と関係ない気持ちで、参拝して欲しかった。
- 慰霊塔みたいなもんや?
- もし国が参拝を推奨しても、
- それは、宗教の押しつけにならない。
- ねえ、なんで国が参拝を勧めるの?
- 江戸幕府から、明治時代になる時に、
- 新しい日本政府は、どうすれば西洋のような、
- 強い法治国家になれるか考えたんだ。
- きっと強いってとこ重要やな。
- そう。
- 西洋には独自の宗教と、強い信仰心がある。
- キリスト教とかユダヤ教みたいな?
- イスラム教もそうやな。
- でも日本には、そこまで強い宗教感がない。
- なんで信仰心とか必要なん?
- 信仰が厚い国は、連帯する力があるから、
- 他国と争う時に強さを発揮する。
- だから神道を使って、その仕組みを作ろうとした。
- 仏教じゃダメ?
- だって明治政府は、天皇主権で始めたわけじゃん。
- 仏教は、戦いには向いとらんで?
- アメリカと同じように、宗教の自由を認めた上で、
- 他に、強い自信を持てる仕組みを、作ろうとした。
- そんな仕組み、難しいよ。
- でもうまくいったんや?
- 突然なくなった徳川支配の空白部分に、
- 新しく作った神道が、すっぽり治まった。
- なんか、私にはピンと来ないよ?
- 例えば、年号だって違ってた。
- 第二次世界大戦中には、皇紀という年号があったよ。
- なにそれ?
- 初代神武天皇が即位した年から数えた年号。
- 例えば、西暦2015年なら、皇紀では2675年だよ。
- 平成とか使うのも面倒くさいと思う時ある。
- 年号を独自すると、愛国心に繋げやすい。
- それ閉塞的な宗教の連帯感に似てる。
- そして、それを新しい日本の土台とした。
- 勝ち目がなさそうな日露戦争にも勝てたし、
- 第一次世界大戦の戦勝国になって、
- 世界をリードする五大国にもなれた。
- リードしてたの?
- 世界って、リードしてるつもりの国がいつもいるんだよ。
- 少し言い方にトゲがあるぞ。
- いつもリードしてるつもりの国が傲慢になって、
- 大きな戦争の後に、いつも力関係が反転するじゃん?
- で、日本は戦争に勝って、なんかいい事あった?
- どうかな?
- 昭和時代になっても、酷い貧困はあったし。
- 第二次世界大戦で原爆まで落とされた。
- ええことないやん。
- ウンザリした日本人は戦争アレルギーになったよ。
- GHQの占領下になった時、
- ダグラスマッカーサーは日本の民主主義の成熟度を、
- 12才並みだと言ったよ。
- えーと、他の国はいくつくらい?
- アメリカを40歳とするならば、ドイツは45歳。
- 小学生並みかよ。
- 第二次大戦の後、
- 12才の民主主義国を、もう一度作り直す事にした。
- アメリカの監修の元にね。
- それって、何をどう変えるもんなの?
- 例えば、女性に選挙権を与えた。
- そんな最近までなかったの?
- なかったよ。
- あと、人身売買禁止とか。
- そんなのあった?
- 遊郭とかに娘を売ってたじゃん?
- ああ、そこか。
- 経済をフェアにするために財閥解体。
- それと政教分離ね。
- 国と宗教を分けるって事?
- 日本政府は神道に介入してたじゃん?
- でも、神道は宗教じゃないって言ってたやん?
- そんなの言い逃れだよ。
- アメリカは「国家神道」って呼んだよ。
- じゃあどうしたらいいの?
- 神道を国から分離して、神社本庁を作った。
- 今の神社の仕組みってGHQが作ったようなもん?
- 靖国神社については揉めたよ。
- 英霊を祀ってる神社だから、
- どうしても国家神道の色が濃く残るからね。
- 明治時代に作ったもんだしね。
- これについては、マッカーサーも迷って、
- 結局、ブルーノ・ビッテル神父や、
- パトリック・バーン神父など、
- カトリックの神父さん達に考えてもらったよ。
- どういう答えが出た?
- 単体の宗教として、靖国神社を残す事にしたよ。
- 靖国神社は、神社本庁に属してないのか。
- 神道とは別に存在する、靖国神社教って事?
- 日本カトリック司教団も、
- 靖国神社が一宗教法人になるならと、
- 信教の自由として認めた。
- こうして神道と国は完全に分離されたわけさ。
- よく靖国神社を、首相が参拝したとか騒がれるのはなんで?
- 靖国神社は戦死した人を祀る神社だから、
- 軍事裁判で有罪になった、
- A級戦犯とか、BC級戦犯とか関係なく、
- 亡くなっていれば祀られるんだよ。
- AとかBとかCって何が違うの?
- A級は平和に対する罪。
- B級は通例の戦争犯罪。
- C級は人道に対する罪。
- 別にA級が特別罪が重いとかって意味じゃないよ。
- その人達が祀られてるから問題なのか。
- 戦犯だけ分けるとかすりゃええの?
- 今更、246万人分やるの?
- いや、ABC級戦犯だけとか。
- それを政府がやってしまったら、
- 政教分離に反するって事になるでしょ?
- じゃあさ。
- 首相が一宗教法人の神社を参拝するのって、
- 政教分離的にどうなの?
- 首相が個人だと言えば自由だし。
- 公的なものだと言えば問題あるよね。
- めっちゃデリケートな話やな。
- 靖国神社はまだマシ。六本木にもっと扱い辛い場所ある。