- 渋谷駅の待ち合わせ場所と言えば?
- マークシティの一階。
- いや、もっと有名なとこあるやろ?
- ヒカリエかなあ。
- ちゃうよ、昔からみんな知ってるとこ。
- キューフロントのツタヤ。
- わざと外しとるやろ?
- 他に思いつかないよ。
- 今、ハチ公の像の前やろ?
- わかってるよ。
- じゃあ、なんでこの像がここにあるか知っとるな?
- 知るわけないじゃん。
- たまたま空いてたから置いてるだけだよ。
- 忠犬ハチ公の話、知らんの?
- 南極に置いてきた犬の話だっけ?
- それタロとジロやろ。
- 像をよく見ると愛らしい顔しとるやろ?
- ほんとだ。
- 耳が片方垂れてる。
- ハチ公、1923年生まれ。
- 飼い主は、上野英三郎(ひでさぶろう)。
- ここ渋谷に住んでた大学教授やった。
- なんだちゃんと理由があるんだ。
- 上野教授は東大農学部に通ってはった。
- 東大農学部ってどこ?
- 文京区本郷。
- ハチ公は教授の帰りを楽しみにしとって、
- 渋谷駅に迎えに来る事もあったんやって。
- 犬って健気だよね。
- ところが、ある日。
- 上野教授が大学で脳溢血(のういっけつ)で倒れてしまうんよ。
- そして、そのまま帰らぬ人になってしもた。
- ハチ公は?
- 飼い主が死んだ事がわかっとらんから、
- その後も渋谷駅に迎えにきとった。
- ごめん、もう涙腺ヤバくなってきた。
- 犬好きだっけ?
- 頻繁に渋谷駅で見かけるハチ公は、
- 通行人とか子どもとかに、イジめられるようなってきた。
- ひどい奴らだな。
- それを知った、日本犬保存会の斎藤弘吉が、
- ハチ公の事を当時の東京朝日新聞に寄稿したんよ。
- いいぞ、斎藤さん。
- 新聞で取り上げられると、
- ハチ公は、みんなに可愛がられるようなった。
- よかった。
- 犬好きだったっけ?
- 上野教授が亡くなってから10年目。
- 1935年3月8日の朝6時、ハチ公11才の時。
- 渋谷駅の南、稲荷橋付近の路地で死んどった。
- ここは普段ハチ公が来ないとこやった。
- ハチ公、なんでわざわざここをえらんだの?
- 自分の死期を悟ったのかも?
- 死体を病理解剖したら、
- 心臓と肝臓にフィラリアが寄生しとった。
- フィラリア?
- 寄生虫な。
- うえええ。
- それと心臓と肺にガンも見つかったんよ。
- 死因はそれ?
- たぶんな。
- あとな、胃からは焼き鳥の串が3、4本。
- 串ごと食べたの。
- 耳が垂れてるのはなんで?
- 他の犬に噛み付かれたらしいで。
- この話、つらすぎる。
- いつから犬が好きになったの?
- おまえは冷たい女だな。
- おもろかったやろ? 次は、道玄坂の話したろかな?