- 国立天文台ついた。
- 宇宙っていいよね。
- 興味ないわ。
- 星とかただの点じゃん。
- かわいそうなヤツらだ。
- マニアの世界だよ。
- 天体オタクがイジりまわしとるだけや。
- おまえらには、ロマンの欠片もないね。
- 宇宙のどこにロマンがあるっていうの?
- 眼球に光の反射が届くと、モノは見えるんだよ。
- つまり、光が反射して来ないと見えない。
- 何の話が始まるの?
- 光の速度は1秒で29万9792.458キロ。
- 1秒で地球2周やった?
- 7周半だよ。
- あの太陽までの距離は1億4960万キロ。
- つまり、あれは8分20秒前の太陽なんだよ。
- 過去見てるの?
- そうだよ、タイムトラベル。
- わかった?
- わからへん。
- 木星は35分前の木星を見てるんだよ。
- ベテルギウス星は642年前。
- 今、ベテルギウス星が爆発しても、
- 目で見えるのは642年後って事。
- それが何の意味になるの?
- 常識なんて幻影だってことさ。
- わけわからん。
- そういったものを本気で追及してる人達が、
- 新しいものを生み出してきたんだよ。
- ここにはその歴史がいっぱいある。
- ついていけへん。
- でも、聞いてるフリしないとスネるよ?
- これは1921年に建てた第一赤道儀室。
- 第一次世界大戦の6年後から、
- 1998年まで太陽の黒点を観測してたんだって。
- 黒点って?
- 太陽についとるポチッとした黒い点ちゃう?
- 望遠鏡はドイツのカールツァイス製。
- ドイツ?
- この頃の望遠鏡はドイツ製ばっかりだよ。
- ここは・・
- レプソルド子午儀室(しごぎしつ)。
- さっきのと比べると、ただの家って感じやな。
- 1925年に建てた建物で、
- 中にあるのはレプソルド子午儀。
- 天体の位置を観測してたんだって。
- これもドイツ製?
- そう、ドイツのレプソルド社。
- 薬袋の車は?
- 私のボクスターもドイツ製や。
- ここは、1926年にできた大赤道儀室。
- すっごい大きい望遠鏡がある。
- ほんまや。
- やっぱりドイツのカールツァイス製。
- なんでもドイツばっかりや。
- 恒星の位置観測によく使われたみたい。
- この部屋、床が上がったり下がったりするんだよ。
- なんで?
- 望遠鏡の接眼部分の高さを合わせるため。
- めっちゃ手間かけとるんやな。
- 次、行こう。
- 決められたとこしか歩けへんの?
- あっち行ってみたい。
- ダメ。
- なんで?
- 蛇が出るんだよ。
- 毒へび?
- ヤマカガシが出る。
- わたし、ヘビ好き。
- ブラックマンバいるかな?
- いるわけないやろ。
- ここは1930年にできた太陽塔望遠鏡。
- 望遠鏡?
- 建物の中に望遠鏡があるんやろ?
- ちがう、この建物自体が望遠鏡の筒なんだよ。
- そう言われたら、望遠鏡みたいな形に見えてきた。
- ドイツのベルリン市郊外にあった、ポツダム天体物理観測所の、
- アインシュタイン塔と同じ形なんだって。
- アインシュタインってあの博士の?
- ドイツ生まれのユダヤ人の理論物理学者。
- ドイツ国内でユダヤ人への迫害が激しくなって、アメリカに亡命。
- ドイツが敗戦した時、望遠鏡の会社はどうなったの?
- カールツァイス社は、
- 戦後に東ドイツになるイェーナって所にあったんだけど、
- 連合軍が本格的に統治開始する直前に、
- アメリカが技術者125人と家族を拉致して、
- 西側のオーバーコッヘンに移転させたんだって。
- なんでそういう欲張りな事するの?
- 共産主義国との対立に備えてたんちゃう?
- 残った技術者はソ連が接収して、
- カールツァイスは2つに割れたんだよ。
- ここは1982年にできた観測施設。
- ねえ、今もドイツ製使ってるの?
- 太陽フレア望遠鏡はニコン製。
- 一般公開してる望遠鏡は三鷹光器製だよ。
- 見れないの?
- 予約しないとダメ。
- この観測施設は、今は資料館になってるよ。
- 変な像がある。
- それは布袋像(ほていぞう)。
- なんか星と関係あんの?
- 天文時部長の、虎尾正久教授(とらおまさひさ)の遺品で、
- シャレで置いてるだけだって。
- それだけ?
- 教授の書斎にあったんだってさ。
- やっと話終わりかな?
- この近くでなんかネタない?
- 府中に大國魂神社っちゅう、めっちゃ歴史ありそうな神社がある。