- 今日は四ツ谷に来たよ。
- ここって防衛省?
- そうだよ。
- なんで防衛省?
- 今日は、わたしの好きな作家の話に付き合ってもらうよ。
- だれ?
- 三島由紀夫。
- あれ?太宰治とか好きって言ってなかった?
- 私が好きなのは三島由紀夫とか司馬遼太郎だよ。
- 変わってる。
- なんか文句ある?
- 小説の趣味が女子っぽくない。
- わかりにくいけど腐女子としては間違っとらんよ?
- なんで?
- 仮面の告白を読めばわかる。
- 三島由紀夫と防衛省って何の関係があんの?
- 彼が死んだのはここだからだよ。
- 三島由紀夫ってどんな人?
- 小説家だったけど、
- 雑誌の執筆とか、評論、俳優までこなしてた。
- 昭和45年(1970年)頃は、その名を知らない人がいないくらい、
- 活動的な人だったんだよ。
- その頃ってどんな時代やった?
- アメリカはベトナム戦争してたし、
- 日本では反戦を主張する運動とか、
- 学生の新左翼が派手な活動をしてたよ。
- どんなん?
- 大学生が武装して、新宿駅を占拠したり。
- 火炎瓶を投げつけたり、燃やしたり。
- めっちゃ物騒やな。
- そういう過激な左翼勢力に触発されて、
- 三島由紀夫も政治活動に力を入れていったみたい。
- 三島も火炎瓶投げたの?
- 過激な反政府的な活動家達が、
- 日本の治安を破壊した時の準備をしてたよ。
- どんな準備?
- 天皇陛下と国を守る民兵組織を作ったんだよ。
- そして「楯の会」って名付けた。
- それって自衛団?
- そんなの警察に任せておけばいいじゃん。
- 本格的な武装勢力には、警察では太刀打ちできないと考えた。
- じゃ、そんな時こそ自衛隊の仕事じゃん?
- 三島は自衛隊になんか任せておけないって考えた。
- なんで?
- ひとりの小説家なんかよりマシやろ?
- 彼は、自衛隊はハリボテでしかないと思ったんだよ。
- 意味わかんない。
- 銃に弾入ってないって事?
- 日本国憲法の解釈によって、存在が違憲だと言われたり・・
- 都合が良い時には合憲だと言われたりして、
- 政府に外交用のネタとして利用されてるだけだって。
- それで自分で軍隊作ったんや?
- 当時のマスコミは、
- 三島由紀夫は兵隊ゴッコしてる程度だと、
- 過小評価してたんだけど。
- 実際は、自衛隊にも体験入隊して、
- かなり本格的な組織に仕上がってたんだよ。
- で、三島由紀夫はここで死んだって言ったっけ?
- 防衛省?
- 昔ここは自衛隊市ヶ谷駐屯地だったんだよ。
- 彼は何をしようとしてたん?
- 憲法改正して自衛隊を合憲にしようとした。
- そうすれば政治利用されずに防衛に専念できる。
- 憲法変えたいんなら、まず政治家にならんと。
- じゃあ、立候補?
- そんな遠まわしな事やってらんないから、
- 楯の会の仲間のうち4人を選んで、
- 5人でここに来たんだよ。
- んで、なにをしたの?
- 日本刀で脅して、自衛隊の総監を人質にした。
- 駐屯地に日本刀なんて持って入れるの?
- その日は、刀を見せるために、友人として訪れたんだよ。
- 総監もまさかその刀を振り回されるとは、思わなかった。
- なるほど。
- 隊員と揉み合った時に付いた日本刀の痕だよ。
- 全部で三か所ある。
- 今でも残ってるんや。
- 当時の現場は資料館になってるよ。
- 人質をとってどうしたの?
- このバルコニーで演説したんだよ。
- なんて?
- 自衛隊を合法化するためには、
- 君達、自衛隊が決起を起こさないとダメだって。
- 決起?
- クーデターを起こせって事?
- それとはちょっと違うかな?
- 自衛隊による軍事政権を作ろうとしたんじゃなくて、
- 自衛隊の合憲化が目的だったから。
- 自衛隊に何をして欲しかったん?
- 賛同して欲しかったんじゃないかな?
- 自衛隊の人達はなんて答えたん?
- バカヤロ、おりてこい。
- おまえに何がわかるか。
- ひきずりおろせ。
- って、ヤジを飛ばした。
- 全然、理解されとらんやん。
- まあ、マスコミのヘリコプターの音がうるさくて、
- よく聞こえなかったそうだよ。
- そして?
- 結局、誰も三島由紀夫に賛同しなかった。
- 三島由紀夫はどうしたの?
- 皇居に向かって正座して、
- 「天皇陛下万歳」と3回唱えて、
- 人質の総監を連れて総監室に戻ったんだ。
- 逃げたの?
- 「こうするより仕方なかったんだ」って言って、
- 切腹した。
- 何年の話やった?
- 1970年。
- 昭和?
- 昭和45年。
- 一緒に来た森田必勝(まさかつ)が、三島由紀夫の首をはねて、
- 続いて森田必勝も切腹して、
- その首をはねたのが小賀正義(こがまさよし)。
- 2人の死体は丁寧に並べられて、
- 総監を釈放して逮捕されたんだ。
- 三島由紀夫はなんで自殺したの?
- 死んだって憲法は変わらへん。
- 政治的な主張を時代に刻みたかった?
- 三島由紀夫は小説を書きあげて、ピリオドを打ってから、
- 市ヶ谷に向かったんだよ。
- 最初っから死ぬ気やったんや。
- 戦争中、三島由紀夫は体調が原因で徴兵されなかったんだけど。
- それが辛かったとか。
- 戦後は、自分の居場所を失った気がして、
- 長い時間をかけて、ニヒリズムに陥っていったんだよ。
- ニヒリズムってなに?
- 虚無主義。
- きょむしゅぎ?
- なにそれ?
- 人生なんて何の意味もないっていう考え方。
- 小説家って思いつめちゃう人多いよね。
- 三島由紀夫の気持ちがサッパリわからへん。
- なんで自衛隊を巻き込んで自殺せなあかんの?
- 憲法改正して自国を守れる国にならないと、
- アメリカに利用されるだけの国になるって、
- そんな不安があったんだとは思うよ。
- 利用されるとか思ったのはなんで?
- ベトナム戦争とかがあった時代だからじゃん?
- こりゃあ、難しい話だな。
- じゃあ、難しくない話してよ。
- あんま重たない話たのむわ。
- じゃあ、善福寺川とかいう細い川がなんで氾濫するか知ってる?