- 雪女の話知ってる?
- 知ってるよ。
- 姉妹の話やった?
- うそ?血が繋がってない少年と少女だよ。
- 少年が雪の女王にさらわれるんだよ。
- それ違うから。
- 日本の怪談、雪女だよ。
- どんなん?
- 昔々、2人のきこりの男がいました。
- 一人は老人でもうひとりは若い見習い。
- ある冬の日、吹雪で動けなくなった2人は、
- 山小屋に避難していました。
- 夜、若い見習いが目を覚ますと、
- 隣で寝ている老人の上に、
- 白い服を着た黒髪の美女が覆いかぶさっていました。
- オジーちゃんお盛んやな。
- そういうんじゃないよ。
- 女は息を吹きかけて老人を殺しちゃうんだよ。
- 腹上死やな。
- やめてよ、そういうの。
- その女が雪女?
- そう。
- 雪女は、今度は若い見習いに近寄ってきた。
- 見習いは動けない。
- そして、雪女はこう言ったんだ。
- おまえは若くて可愛いから助けてやる。
- 若いってええな。
- イケメンはお得なんだよ。
- でも、この事は誰にも言うな。
- 「言ったら命はないぞ」、と言い残して消えた。
- それが雪女の話か。
- そのイケメンの名前なんての?
- 巳之吉(みのきち)。
- 弱そうな名前。
- そういう事言わないでよ。昔の名前なんだからさ。
- それから数年後、巳之吉の元に綺麗な女がやってきた。
- 名前はお雪という。
- その女の正体は雪女やろ?
- 知らないフリして最後まで聞いてよ。
- わかったから続けなよ。
- 巳之吉とお雪は結婚し、沢山子どもができました。
- ある日、巳之吉はお雪に、雪女の事を話しました。
- すると、お雪は正体を現わして雪女になり、
- あの時、「誰にも言うな」と言っただろうと怒りました。
- わあ、その女、雪女やったん?
- もういいから。
- それでどうなった?
- でも、この可愛い子ども達のためにも、おまえを殺せない。
- どうか子どもの面倒を見ておくれ、と言い残して、
- 溶けて消えてしまいましたとさ。
- 雪女はなにがしたかったの?
- 知らないよ。
- まあ、この話は有名な「怪談」の中のひとつなんだけど。
- 調布村というところに伝わる伝説なんだって。
- それって、今の調布市?
- 雪が積もるような山なんてあった?
- ないよ。
- 調布村と調布市は全然違うんだよ。
- 調布村ってどこ?
- 今の青梅市。
- ここは山があるからわかる。
- 冬は雪が積もるしな。
- 青梅に「調布」って地名はもう残ってないんだけど、
- 調布橋というのが残ってるよ。
- ここが雪女の発祥なんや。
- なんで調布って言うの?
- この辺は織物が盛んだったそうだよ。
- それで布なんや。
- さっきの雪女ってシリーズ物?
- 怪談(Kwaidan)の中のひとつだよ。
- なんでカッコの中に英語?
- 海外にも翻訳されたんだよ。
- 怪談って他に何があったっけ?
- 耳無芳一、むじな、ろくろ首・・
- 誰が書いたん?
- 小泉八雲。
- 顔が濃い。
- 外国人だよ。
- え?怪談書いたのって外国人?
- 雪女のオチより驚いたわ。
- 本名はパトリック・ラフカディオ・ハーン。
- ギリシャ人だった日本人。
- どっちなんだよ?
- 元々、ハーンはギリシャ人だったんだよ。
- 厳しいカトリック教徒の家に生まれて、
- キリスト教の教育にうんざりしてたんだって。
- 宗教は親から引き継がれるもんやって。
- そして、ケルト原教のドルイド教にハマったり、
- イギリスやフランス、アメリカへ渡ったりして、
- 新聞記者とかの仕事してたんだよ。
- 世界を股にかけた男やな。
- ある日、人から聞いて日本の事を知り、憧れた。
- そして、1890年にアメリカの出版社の仕事で日本に来て、
- そのまま帰化して日本人になったそうな。
- そんな人おったんや。
- おどろいた。
- 帰化したときに、小泉八雲に改名したんだよ。
- なるほど。
- それで日本人なんや。
- 日本を語らせたら右に出るものはない、ってほど、
- 西洋人の客観的な視点から、日本を調べ尽くした人さ。
- 小泉八雲が書いた、
- Japan An Attempt at Interpretationって本は、
- アメリカやGHQの、日本人への心理戦略に役立ったそうだよ。
- その本、英語しかないの?
- 日本語訳された本は、神国日本。
- どう訳したらそうなるん?
- 世界視点で徹底的に日本を分析した本は他にないよ。
- どんな内容?
- 日本人の良い部分と、悪い部分がギッシリ。
- 読むときっと疲れるよ。
- それじゃ帰ろっか。
- 帰りに寄っていって欲しいところがあるんだけどさ。