- 羽村市に来たよ。
- 歯ぶらし?
- はむらしだよ。
- 羽村駅のすぐそばに、五ノ神社(ごのかみしゃ)があって、
- そこに珍しい井戸の跡があるんだ。
- その名もまいまいず井戸。
- おおー。
- 転ばんようにな。
- あの真ん中にあんのが井戸?
- ここからあそこまで40mだって。
- 穴の直径はだいたい16メートル。
- あの穴まで深さ4.3メートル。
- なにがどうしてこうなった?
- 水泥棒よけやろ?
- ぶっぶう、ちがいまーす。
- 幽霊が出るんやろ?
- なんで、幽霊とこの形が関係あんだよ。
- 井戸から出て来た幽霊が目を回すやろ?
- それだそれ。
- 真面目に考えろよ。
- だっておもろいやんか。
- まいまいず井戸。
- かわいい。
- ここらへんは武蔵野台地でさ。
- 武蔵野台地ってなんだっけ?
- 南の多摩川と、北の荒川らへんまでの台地。
- 川の名前じゃわからへん。
- 立川市から埼玉県の川越市らへんまで。
- 結構広い範囲だね。
- 武蔵野台地の地下はちょっと複雑でさ。
- 穴をまっすぐに掘るには苦労するんだって。
- 井戸とか?
- そうそれ。
- 地盤が壊れやすくて、細い穴掘ると崩れちゃうんだって。
- だから、固い粘土層まで、えぐった感じの穴にして、
- そこから細い穴を掘って井戸を作ったんだよ。
- じゃあ、武蔵野台地にはこういう井戸が一杯あったの?
- そう。
- まいまいず井戸を再現した場所とか、
- 井戸の跡地とかは他にもあるんだけど。
- ここまで原型を保ってるのは珍しいよ。
- ねえ、なんでここは残ってるの?
- 1960年(昭和35年)まで使われてたんだって。
- 井戸なんか使わなくったって、川があるじゃん?
- 多摩川の近くやった?
- でも、毎日水を汲みに行くには遠いじゃん?
- 仕事で水を使う場合は細い川がいっぱいあるんだよ。
- この辺には細い川ないん?
- だから、農業にも向いてない。
- 畑とかそういうのはないんだ?
- この辺は、鍛冶(かじ)とか鋳物(いもの)とか、
- 金属の加工職人が多かったんだってさ。
- そういえば、あんた片付けなあかん仕事あったやろ?
- 今から隅田川の向こうまで行かないといけないんだよ。
- あ、そうだ。隅田川のあたりで、いっこ面白い話がある。