- 西国分寺駅の近くに・・
- 池があるんやけど。
- ここは姿見の池(すがたみ)って言うんやって。
- なんで?
- むかし女の人が姿を映して見てたんやって。
- 鏡の代わりってこと?
- 今じゃ濁ってて映らないよ?
- ヘドロだね。
- うそ?綺麗だよこの水。
- ヘドロじゃなくて天然の土で濁ってんだよ。
- この水、湧き水やって。
- どっから湧いてるの?
- ってか、湧き水の仕組みってよくわかんないんだけど。
- 湧き水は、雨水が地下に溜まって湧くんやって。
- ここらへんは雨水浸透ますで、地下水に水を通して、
- 湧き水を再現してるんやって。
- それって、地味に凄いこと?
- 多分、すごいと思うよ。
- むかしは綺麗な湧き水が沸いてたらしいけど、
- 都市開発と共に水が汚れて、
- 1965年に埋め立てた池を、
- 1998年に復元させたんやって。
- あのさ、この話面白い?
- つまんない。
- じゃあ、おもろい話したるわ。
- ここで身投げした女の人がおるんよ。
- 面白くないよ。
- やめようよ。怖いし、不謹慎だよ。
- で、その自殺した女の人って誰?
- 夙妻太夫(あさづまたゆう)。
- 太夫(たゆう)?
- 太ってたの?
- 遊女や。
- 遊女の中でも一番位が高いのを、太夫(たゆう)って言うんよ。
- ここに遊女がいたんだ?
- このへんは鎌倉街道が通ってたらしいで。
- 街道沿いに、遊女がおる宿場があったんやって。
- うそ?鎌倉って神奈川じゃん?
- 鎌倉街道は、埼玉から鎌倉まで繋がっとるんよ。
- その時代は「鎌倉街道」って言葉はなくて、
- 上道(かみつみち)、中道(なかつみち)、下道(しもつみち)
- って呼ばれてたんよ。
- 鎌倉街道って言葉は、江戸時代に出てきたんやって。
- えーと、この辺はなんて呼ぶの?
- 上道(かみつみち)が通ってた。
- で、その女の人はなんで池に飛び込んだの?
- 鎌倉時代の武将、畠山重忠(はたけやましげただ)が、
- 今の、埼玉県深谷市あたりから、
- 幕府のあった鎌倉まで通ってた時に、
- いつもここを通ってたらしいんよ。
- 悪い男?
- 夙妻太夫とめっちゃ惹かれあっとった。
- ねえ、夙妻太夫って遊女でしょ?
- うん。
- つまり、お金さえ払えば誰とでも寝ちゃう?
- 遊女と言っても、太夫やからな。
- 普通の女の子と同じやと思ったほうがええんちゃう?
- 特別な人にしか惹かれないって事かな?
- で、なんで身投げしたの?
- 畠山重忠が遠征した時に、死んだって知らされたからや。
- へえ、一途なんだ?
- しかもその話は嘘やった。
- 誰が嘘ついたの?
- 重忠が死ねば、自分と付き合ってくれると思った男や。
- 畠山重忠はどうした?
- 夙妻太夫の死を悲しんで、像とお寺作ったよ。
- そのお寺って残ってるの?
- そのお寺がどこかはわからへんらしいけど。
- 西国分寺駅の近くに東福寺があって、
- そこにお墓は見つけたよ。
- 傾城(けいせい)って書いてある?
- 傾城ってなに?
- 遊女の「太夫(たゆう)」って言葉は…、
- 江戸時代から使われるようなったんよ。
- この話は、鎌倉時代の話じゃなかった?
- 鎌倉時代は、位の高い遊女の事を「傾城」って言うたんやって。
- 女の人が着水自殺して、像を作ったって伝説多いよね。
- あ、ねえ。
- 変なこと気付いた。
- なに?
- 西国分寺って駅はあるのにさ。
- 西国分寺って地名ないの?
- ないよ。
- ここの住所は恋ヶ窪(こいがくぼ)。
- すぐ近くに西武国分寺線の駅もあるよ。
- かわいい名前。
- なんで恋ヶ窪って地名になったの?
- アイヌ語が語源とか・・
- あと、武蔵の国府に近い窪地やから、
- 国府ヶ窪が「恋ヶ窪」に変化したとか。
- なんか可愛くないね。
- 池に鯉がおったから「鯉が窪」とか。
- どんどん期待外れになっていく。
- 恋する乙女が身投げしたから、恋ヶ窪って事にしとこうぜ?
- こんな東京のはじっこまで来て、鎌倉街道の話するなんてね。
- 国分寺をナメたらあかんよ。はじっことちゃうで?