- 今日は府中刑務所にきたよ。
- ここは再犯者とか外国人受刑者とかが多いんだって。
- すごい壁だね。
- 乗り越えるのは無理やな。
- 定員は2,842人なんだけど、今定員オーバーなんだってさ。
- 刑務所足りてないんや。
- 刑務所の西側には、刑務所より広い敷地の東芝工場。
- 過去に最高3万人くらい働いてたんだって。
- 刑務所の10倍や。
- これだけの従業員にボーナス出すのは大変だね。
- いくらくらい?
- 総額三億円。
- えっと、こういうお金の計算ってわかんない。
- めっちゃ安いわ。一人平均1万円やで?
- 1968年当時の三億円だよ。
- 今の貨幣価値にすると10億円相当だよ。
- 10億円あったらどうする?
- 貯金する。
- 地味な使い方だな。
- ハンパな金額やな。
- 株にするわ。
- なんかつまんないな、おまえら。
- 夢子は何に使うの?
- おしえない。
- 整形やろな。
- わたしに整形の必要なんかないだろ?
- で、東芝の三億円のボーナスの話は?
- その時はさ、
- 三億円を普通の車で輸送してたんだって。
- 三億円ってどれくらいの量?
- ジュラルミンのトランク3個分だよ。
- それなら車のトランクに入るな。
- 1968年12月6日。
- 日本信託銀行、国分寺支店の支店長に脅迫状が届いた。
- 指定の場所に300万円持って来ないと家を爆破するって。
- 指定場所に警察官50人が張り込んだけど、
- 犯人は現れなかったって。
- そんだけ警察官がいたら犯人も諦めるやろな。
- 4日後の12月10日。
- 脅迫を受けた、日本信託銀行の国分寺支店から、
- 三億円を積んだ現金輸送車(セドリック)が出発。
- 社員の大事なボーナスや。
- その車は東芝工場に向かった。
- で、現金輸送車がちょうどこの辺に差し掛かった時。
- 刑務所の北側?
- 学校とかあるな。
- 後ろから白バイが追いかけて来た。
- そして輸送車の前に停まると運転手に声かけたんだ。
- あのー、お金落としましたよ。
- 黙って聞けよ。
- あなたの銀行の巣鴨支店長宅が爆破されました。
- この車にもダイナマイトが仕掛けてあるので調べるって。
- 物騒やな。
- 例の脅迫電話の人の仕業だよ。
- 白バイ隊員が現金輸送車の下を調べると、
- シューっと音をたてて、火花が散り始める。
- 爆発するよ。
- 爆発するぞ!早く逃げろ!と白バイ隊員。
- 銀行員が慌てて逃げると、
- 勇敢にも、白バイ隊員が現金輸送車に乗り込み、走り去った。
- どこ行ったんやろ?
- 爆弾処理に行ったんじゃないの?
- そしてそこには燃え尽きた発炎筒が残された。
- その白バイ隊員は偽物か。
- あっさりと盗まれとるやん。
- すぐに警察は東京全域で緊急配備したものの、
- 検問では犯人は見つからなかったそーな。
- 犯人の車(セドリック)はどこ行ったの?
- 強盗現場から少し北に行ったところ、
- 国分寺史跡あたりに乗り捨てられてたって。
- 七重の塔なんてあったんや。
- 犯人はここで車をカローラに乗り換えた。
- 検問で、大きなケース見つからなかったの?
- 空のケースは、
- 事件現場から北東方面…、武蔵小金井駅からちょっと北、
- 小金井市本町の団地の駐車場に捨てられてた。
- 4ヶ月後にカローラと一緒にここで発見されたんだよ。
- 4ヶ月後って言うた?
- 団地の人とか誰も気付かなかったの?
- ここは、誰もが無関心な事を、犯人は知ってたんだろうね。
- 駐車場には、他にも盗難車が3台あったんだって。
- 全部犯人のもの?
- たぶんね。
- この盗難車の中に女物のイヤリングとか、
- 競馬雑誌とか、喫茶店のマッチとか、
- 犯人のものと思われる遺留品が残されてたんだって。
- 落としすぎや、アホな犯人やな。
- いや、捜査を錯乱させるためにわざと残していったのかも?
- 強盗現場には帽子とかバイクも残されていたし、
- 細かい遺留品が、全部で120点もあったんだってさ。
- 帽子に汗とか残ってなかったの?
- 警察官達が現場で交互に被っちゃって鑑定不能。
- なにしてはるの。
- 銀行員は白バイの人見てるんでしょ?
- 目撃者おるやん。
- 普通ならモンタージュ写真を作るんだけどさ。
- 容疑者として疑われた19歳の少年を目撃者達に面通ししたら、
- みんなが似てるって言ったから、
- この少年の顔を元に指名手配用の似顔絵に使ったんだって。
- でもこの少年は後にシロと発覚。
- 余計に真犯人の顔がわからなくなったって。
- なんか自分らのせいで混乱しとるな。
- 証拠が捜査の足引っ張ってるね。
- 少年は、事件の5日後に青酸カリで不可解な自殺。
- どうしたんやろ?
- 他にも何人か容疑者が出て来たんだけど、
- アリバイとか血液型が違うとかで、みんなシロ。
- 容疑者の中には、マスコミに執拗に追い掛け回されて、
- 自殺した人もいたんだって。
- 社会ごと泥沼化しとるな。
- ついには付近への無差別聞き込みでローラー作戦。
- 被疑者の数は10万人以上。
- 探すほうもぐったりやな。
- そう、捜査の過労から亡くなった警察官もいたんだって。
- 事件と直接関係ないところで、死人が出てるんだね。
- でも結局、犯人が特定できず。
- 1975年に時効。
- 時効成立後に自称犯人が何人か現われたらしいよ。
- 自称犯人って?
- 目立ちたい人とか、名前を売りたい人とか。
- まあみんな偽物だったそうだけどね。
- 結局、三億円は消えてしまった。
- ねえ、お金盗まれちゃったらボーナスはカット?
- いや、保険から支払われたよ。
- 映画化もされた?
- そりゃあもう。
- 小説、映画、ドラマから漫画、歌まで作られたよ。
- 三億円以上の経済効果や。
- 次、この辺にある謎の森に寄っていくぞ。