- 今は賑やかな浅草だけどさ。
- 1400年くらい前は、辺鄙な所だったそうだよ。
- そんなん、昔すぎて想像もつかんわ。
- 記録残ってないくらい前じゃん。
- 辺鄙だから、旅人が泊まる所に困ったらしいよ。
- 旅館なんてあったのかな?
- 中国に人を派遣しとるような時代やから、あったんとちゃう?
- この辺で、夜に、泊まるところに困っているとさ。
- 若くて美しい娘が寄ってきて、
- うちに泊まりませんか?って言うんだって。
- 夜に綺麗な女?
- 不自然な話や。
- 罠だよそれ!
- 典型的な美人局(つつもたせ)や。
- 美しい娘はお婆さんと2人暮らし。
- 夜、寝静まった頃に・・・
- お婆さんが旅人の頭を、石枕で叩き割るんだって。
- ほら、罠だった。
- 甘い話についてったらあかんよ。
- 2人は旅人から奪った金品で、生計立ててたんだってさ。
- 死体はここらへんにある池に捨ててたんだって。
- 池なんかあったんや。
- 999人も殺したらしいよ。
- 池の底、死体だらけやな…。
- ある日、1000人目の犠牲者となる旅人が現われた。
- まだ若い男の子だったとか。
- 若い男は金持ってないやろ?
- 娘はその男の子も誘って泊めたんだけど、
- 殺人を犯す事に、心を痛めていたらしいよ。
- もうやめたかったんだろうね。
- うそ?999人も殺しとったら、感覚麻痺しそうや。
- お婆さんはいつものように、石枕で寝ている客人の頭を割った。
- すると、殺したのは男の子に変装した自分の娘だったそうな。
- 娘はなんでお婆さんを説得せえへんかったんやろ?
- 怖かったんじゃないの?
- お婆さんは大泣きして苦しんで、池に身投げしたんだって。
- 後に、この池は姥ヶ池(うばがいけ)と呼ばれたそーな。
- 悲しいっちゅうか、怖いっちゅうか。。
- でもそれ作り話だよね?
- 姥が池跡地ってのが、残ってるんだよ。
- え?実話?
- 浅草寺の中にその石枕が仕舞ってあるんだって。
- 見れるの?
- 石枕は非公開。
- そんな石、怖くて見たない。
- 1000人の死体が隠れる池って、どんだけ深いんだろうな。
- この話と似た話が福島県にもあって、
- 妊婦を襲ってその腹を裂いていたという安達ケ原の鬼婆。
- 福島の話のほうがエグいな。
- このお話も鬼婆が殺した妊婦は、自分の娘だったというオチでさ。
- 月岡芳年(つきおかよしとし)がこの話を絵に描いたんだけど、
- 風紀を乱すからって、明治政府が発禁にしたんだって。
- 話聞いてるだけでも気持ち悪い。
- 埼玉県にも足立ヶ原の鬼婆という話があって、
- こっちは鬼婆が人を捕まえて食べていたという話。
- なんでこんな話ばっかなんやろ?
- 怖い話って人を惹きつけるじゃん?
- この鬼婆伝説の発祥は、埼玉か福島かで、揉めたんだって。
- んな怖い話、どっちでもええわ。
- そんな不名誉な話の発祥である必要はないと説得されて、
- 埼玉県は折れたんだってさ。
- 浅草のほうは?
- 浅草のほうは、特に争ってはいなかったみたいだけど。
- 浅茅ヶ原の鬼婆は、最後に、鬼婆が龍になったとか
- 蛇とかになったとか、独自に進化していったよ。
- やっぱりこれって作り話だよね?
- 当たり前やろ?
- どの鬼婆伝説も、共通点があってさ。
- 鬼婆を懲らしめるために、観音菩薩が出てくるんだよ。
- 原作は仏教の神話かな?
- 仏教で鬼子母神の神話があるんだけど、
- 1000人の子がいる鬼神がいてさ。
- 1000人ってなんか共通点がある数字やな。
- この鬼子母神は、たまに人の子を食べる癖があったんだって。
- 埼玉県のほうの話と似とる。
- お釈迦様に我が子を隠されて、初めて子を奪われる辛さを知ったとか。
- なんか極端すぎる話やな。
- 釈迦が出てくるって事は、やっぱりインドの神話かな?
- 鬼子母神はハーリーティって読むそうだから、
- インドの神話が元になってるのかもね。
- 他にも怖い話聞きたい?
- 実話じゃないほうがええな。
- 軽く聞ける古い怪談話みたいの。
- んじゃあ、怪談話を集めた本所七不思議はどう?