- 南千住駅に到着。
- 江戸の北側、日光街道の入り口だよ。
- 南側の東海道入り口には何があったか覚えてる?
- 鈴ヶ森刑場。
- そう、江戸の入り口には必ず処刑場があるんだよね。
- ここには小塚原刑場(こづかはらけいじょう)があったんだよ。
- 鈴ヶ森刑場とは雰囲気違うな。
- 刑場跡は小塚原回向院(えこういん)の敷地内にあるんだ。
- ねえ、延命寺(えんめいじ)って書いてあるよ?
- 場所、間違えたんちゃう?
- ここは元々1つの小塚原回向院だったんだけど。
- 常磐線を通した時に南北分断されちゃったんだ。
- 線路の北は小塚原回向院。
- 南側は延命寺になったの。
- 刑場跡地だった延命寺には首切地蔵(くびきりじぞう)があるんだ。
- 1741年に無縁供養のために建てられたんだって。
- 名前は怖いけど、穏やかな顔しとる。
- 次は、北の小塚原回向院に行ってみよっか。
- 線路の下を通って行くと…、
- すぐに小塚原回向院に到着。
- ここには有名な人のお墓があるよ。
- だれ?
- 吉田松陰、片岡直二郎、高橋お伝。
- ねずみ小僧の源達信士。
- ねずみ小僧って誰だっけ?
- お金持ちばかりを狙った泥棒だよ。
- 高橋お伝は?
- 日本で最後に打ち首となった女性だよ。
- 女の人でも首切られたんや…。
- ねえ、打ち首って刀でやるの?
- そうだよ。
- あのさ、刀ってスッパリと切れるもん?
- つまり…、
- 切り損なったりするの?
- 斬首の専門家がいたから、慣れてただろうね。
- 専門家なんておったんや?
- 山田浅右衛門(やまだあさえもん)。
- 首切り浅右衛門と呼ばれた死刑執行人だよ。
- 物騒な人やな。
- この時代のプロフェッショナルだよ。
- 浅右衛門は、ここで刀の試し切りも請け負ってた。
- 試し切り?
- 死体で?
- 試し切りした刀は浅右衛門によって品質保証されるの。
- 彼は刀の鑑定士でもあったし、頼りにされてたんだよ。
- 浅右衛門は死体を持ち帰る事が許されていたから、
- 人の内臓から薬を作って売ったりしていたんだよ。
- なんの薬?
- 結核(労咳)に効くとか。
- 嘘や。絶対効かへん。
- 江戸時代の結核は殆ど不治の病だったからね。
- 藁にもすがる想いさ。
- なんか処刑人のイメージがちがう。
- 浅右衛門は、俳諧(はいかい)を学んだり、
- 処刑された人達の供養活動にも積極的だったんだ。
- ええ人みたいに思えてきた。
- 他にも、小塚原刑場と言えば欠かせない人物がいるよ。
- また処刑の達人?
- 日本の歴史を変えた人達。
- 杉田玄白(すぎたげんぱく)。
- 前野良沢(まえのりょうたく)。
- 中川淳庵(なかがわじゅんあん)。
- 杉田玄白は知っとるな。
- なにやった人だっけ?
- オランダ語の解剖学書ターヘル・アナトミアを日本語に翻訳した人。
- ドイツ人の医者がまとめた西洋医学書の内容が・・
- 本当に正しいのかを確かめるために、小塚原刑場に来たんだよ。
- そして、ここで罪人の遺体の解剖を見て確認したんだ。
- 見て確認?
- 解剖したんじゃなくて、見てただけ?
- 江戸時代に遺体解剖するのは、お医者さんじゃないよ。
- だれ?
- 穢多(えた)という決められた身分の人の仕事。
- 日本には手術ができる外科医がいなかったって事か…。
- そう、杉田玄白は解剖学書のあまりの正確さに感動して、
- 日本語に翻訳する事に決めたんだよ。
- そして、この解体新書が日本の医療を一歩前に進めたのさ。
- 最後の斬首刑、高橋お伝の話も聞きたい?