- 中野区と新宿区の境目にある淀橋(よどばし)だよ。
- 昔、この橋は姿見ずの橋と呼ばれていて、
- 未婚の女性がここを通ると行方不明になるって、言われていたんだよ。
- この橋通ってる青梅街道って、
- 東京横断の動脈みたいなもんやんか。
- その話が本当なら、
- 東京の未婚女性の100万人くらいは行方不明なるな。
- その行方不明になる理由ってなに?
- 呪い?
- 大蛇になった女の呪いだとか。
- ヘビ女か。
- 西新宿のこの辺には十二社の池という大きい池があったの。
- 大蛇はその池の主だったそうだよ。
- 池なんかあった?
- 1968年に埋め立てられて無くなっちゃったよ。
- その池の名残りは、地名でちょっと残ってるよ。
- この神社はなんか関係ある?
- ここは熊野神社。
- 室町時代の1400年頃に、
- 鈴木九郎(くろう)というお金持ちが建てたんだって。
- その鈴木九郎は中野長者と呼ばれてたんだよ。
- 中野区に住んでたから中野長者?
- その当時は中野区なんて区名ないやろ?
- じゃ、朝日長者かも。
- そんな簡単に名前変えるなよ。
- うるさいな。
- とにかく、その鈴木九朗は大金持ちで…、
- 稼いだお金の隠し場所に困ってたんだよ。
- 金庫に入りきらんかったんやな。
- 銀行もないしね。
- だから、財産を使用人に運ばせて、淀橋を渡っていって、
- 新宿中央公園あたりにお金を埋めて、
- 口封じに使用人ごと埋めてきたらしいよ。
- おそろしい話やな。
- 行きは一緒だった使用人が、帰りはいないから。
- 淀橋は、姿見ずの橋と呼ばれるようになったとか。
- あれ?未婚女性が消えるようなってから、
- そう言われたんちゃうの?
- まあ、どっちでもいいじゃん。
- 鈴木九郎には小笹(こざさ)という一人娘がいたんだけど。
- 殺された使用人達の怨念で蛇になったとか。
- その蛇がさっきの十二社の池の大蛇?
- で、その大蛇が未婚女性を行方不明にしとるってわけ?
- 蛇の目的がわかんないしさ。
- その話を信じるほうが難しいぜ。
- ここがその中野長者の家があった成願寺(じょうがんじ)。
- 若い娘を失った鈴木九朗が、
- 悲しみのあまり出家して建てたお寺だよ。
- そんな真面目な人が、使用人殺してたとは思えへん。
- ただの迷信だよ。
- 噂話から膨らんだ作り話だって。
- でも大正時代の人は本気で信じてたらしいよ。
- その500年も前の、ようわからん話を?
- みんな淀橋を避けるようになって、交通にも影響が出てたから、
- 淀橋の工事をしたかった浅田政吉が、
- 民俗学者の柳田国男を呼んで、浄め祭をしたんだって。
- 500年前の蛇を追い払ったんだ。
- パフォーマンスやな。
- 盛大な浄め祭だったから、
- 淀橋の迷信払いと当時の新聞にも載ったらしいよ。
- それ以降、淀橋伝説を気にする人もいなくなった。
- もっと、めっちゃ怖い話ない?
- それじゃ、次は、四谷怪談行こうか。