- 日本でテロって馴染み薄い気がするんだけど。
- そんな事ないよ。
- 世界初のバイオテロが日本であったじゃん。
- なんだっけ?
- 1995年に、オウム真理教が起こした地下鉄サリン事件。
- そっか、それってテロなんだ?
- テロというと自爆テロをイメージしちゃって。
- テロって言葉、頻繁に使うようなったのって、
- アメリカの同時多発テロ事件からや。
- テロって何かの略だっけ?
- テロリズムちゃう?
- 今更だけど、どういう意味?
- 政治的な主張を、暴力的な手段で推し進めようとすること。
- それを毒ガスでやったのがサリン事件か。
- それじゃあさ、ついでに聞くけど・・
- サリンって、なに?
- 1936年にナチスドイツが開発した神経ガスで、
- 殺虫剤の開発中に偶然見つけたらしいよ。
- 神経ガス?
- 吸うと体が痺れる?
- 人体の末端神経から発生するアセチルコリンは、
- アセチルコリンエステラーゼという酵素によって、
- 分解されてるものなんだけど。
- その酵素が動かなくなっちゃうんだよ。
- 余計にわかんなくなった。
- つまり、神経が麻痺して筋肉が動かなくなる。
- 筋肉が動かないってどういう事?
- 力なくなって、体がペタンってなっちゃうのかな?
- まず、涙、よだれ、汗が止まらなくなってから、
- 嘔吐、下痢、失禁を起こすんだよ。
- なんでそういう事になるの?
- 呼吸とか内臓も筋肉で動いてるからちゃう?
- 筋肉が麻痺するって事は、
- 生きるための器官が動かなくなるってことだよ。
- それ怖い。
- ねえ、サリンってクサイの?
- 気になるほどじゃないよ。
- なんとなく魚っぽいニオイがするとか。
- 今日は花粉症がヒドイな思っとったら、
- サリン吸ってもうた、みたいな事もあるん?
- あるよ。
- 1995年の平日の朝8時頃、通勤ラッシュの地下鉄の中で、
- それが撒かれたんだよ。
- どうやって撒いたの?
- サリンの入ったビニール袋に穴をあけて、
- 数人がかりで、電車の中に置いて行ったんだよ。
- どの電車?
- サリンを散布したのは、5ヶ所。
- まず、千代田線。
- 犯人は袋に穴を空けて、新御茶ノ水駅で降りた。
- 電車はそのまま走り続けて。
- 二重橋前駅と日比谷駅の間あたりで人がどんどん倒れたんだ。
- 霞ケ関駅で通報を受けてサリンを排除。
- 電車は国会議事堂前で運行を止めたよ。
- え、サリン撒かれたまま、電車走ってたんだ。
- 電車に乗ってた人はどうなった?
- 2人死亡、231人が重症。
- 重症の人多いね。
- 2ヶ所めは、丸の内線、御茶ノ水駅で散布。
- 中野坂上まで走ってから通報されて、サリンを回収。
- 御茶ノ水から中野坂上までいくつ駅ある?
- えーと・・
- 14こや。
- 電車はそのまま走って、荻窪駅で折り返して、
- 新高円寺まで犠牲者を出し続けたよ。
- 1人死亡、358人重症。
- うわ、20駅以上も走ったんだ。
- 小机んちの近所まで来とるやんか。
- 3ヶ所めは、反対方向の丸の内線、四ツ谷駅で散布。
- 終点の池袋で折り返して、2時間近くも走ったけど。
- 犠牲者が少なかったんだ。
- 何人くらい?
- 200人が重症。
- それって少ないほうなの?
- 死んだ人おらんかったんや。
- 4ヶ所めは日比谷線、恵比寿駅で散布。
- 六本木あたりから被害者で出始めて、霞が関で運行停止。
- 2人死亡、532人重症。
- これで全部?
- まだあるよ。
- 5ヶ所めは、日比谷線の秋葉原駅で散布。
- 小伝馬町駅で、袋が蹴りだされて駅に落ちたんだ。
- そして、小伝馬町駅と、駅に停車した電車にも犠牲者が沢山出たよ。
- 8人死亡、2475人重症。
- ねえ、犠牲者が多いわりに、
- 亡くなった人はそれほど多くないんだね?
- でも、後遺症に苦しみながら生き残っとるで?
- サリンが未完成だったそうだよ。
- もしサリンが軍用レベルに完成していたら・・
- ゾッとする。
- オウム真理教ってそもそもなに?
- インドとかネパールで多いヒンドゥー教を元にした宗教で、
- 原始ヨガを使った修行をしてたみたい。
- ヨガ?
- スポーツクラブでやるヨガと何が違うの?
- ヨガという意味では同じ。
- 最初は渋谷のヨガサークルから始まったんだって。
- キリスト教とかイスラム教は敵?
- 全ての宗教の真理を追究してたそうな。
- どういう人が信者になってたの?
- 三大宗教では納得いかなくて、
- 凝り性な人ほど、ハマりやすい。
- だから学者っぽい人とか高学歴な人とかが多かった。
- 他の宗教と違うのはコレや!みたいなのないの?
- ある意味、コンセプトが柔軟すぎて難しい。
- だから、色んなところに入口があって、
- 気がついたら信者も増えてた。
- ちょっと普通の宗教団体と違うんやな。
- ITから、人材派遣、不動産に、食品、と、
- 手広く事業も拡大していて、収入源も多かった。
- 海外進出から政治活動も積極的で、
- 組織の規模もかなり大きくなってたよ。
- 政治とかお金と関係が深いとことか、
- 企業っぽいとこもあるんやな。
- でも、組織が大きくなると、問題が出てくる。
- 信者と教団のトラブルが勃発して、
- 弁護士の坂本堤(さかもとつつみ)さんが、
- オウム真理教被害者の会を立ち上げたんだ。
- 被害者の会って、目の上のたんこぶって感じだね。
- オウムは政界進出も考えてたからね。
- だから、坂本弁護士は家族ごと殺されたよ。
- バレなかったの?
- 利害関係から辿ったらオウムが一番怪しいじゃん?
- 死体も見つからなかったし、失踪だと思われてた。
- 警察はオウム真理教との関係を疑わなかったそうだよ。
- テレビで喋ってる映像とかようあるけど。
- タレントみたいな活動してたん?
- バラエティ番組に出演したり、
- 週刊誌でもよく取り上げられていたけど、
- 水面下では暗殺や、暗殺未遂・・
- 毒ガスの散布実験とかを進めてたんだ。
- 散布実験ってどこでやってたん?
- そんな実験やってバレへんとこって、山奥とかかな?
- 長野県松本市の住宅地とかだよ。
- めっちゃ大胆な人体実験やなそれ。
- 死者が8人、重軽傷660人でたよ。
- そこまでやって、なんでバレへんのやろ?
- マスコミの取材とか、ジャーナリストの追及・・
- たまに警察沙汰にもなっていたけど。
- そういう社会との摩擦を繰り返しているうちに、
- 教団はますます武装強化を進めてたみたいだね。
- そういう組織ってさ。
- 国家権力相手に、なんで武装とかで対抗しようとするの?
- 会社とかだと賠償金訴訟に備えて、
- 法律チームとか作ったりするじゃん?
- 法律とか、メディアを使った対抗手段も固めてたよ。
- オウムが武装強化に走ったのは、たぶん・・
- 組織全体の被害妄想が強くなったとか、
- ハルマゲドンっていう終末論も原因になってたそうだよ。
- 世界が終わるみたいな発想か。
- 1995年の1月。
- 読売新聞がスクープを出して急展開。
- 教団施設で、毒ガス開発の残留物質を見つけたんだ。
- 警視庁も手探りな中で糸口をたどって、
- 教団の一斉家宅捜索の日程を決めた。
- 家宅捜査はいつ?
- 3月22日。
- どうなった?
- 強制捜査が入る2日前の3月20日に、
- 教団は地下鉄でサリンをまいたよ。
- なんでそのタイミングで事件起こしたん?
- 自分から墓穴掘ってるようなもんじゃん。
- オウム真理教から目を反らすため。
- 逆転の発想か。
- それと、政府機関の中枢を攻撃して、
- 自分達に有利にしようとしたんだよ。
- そんなんうまく行くわけないやん?
- いや、目論見は、どうやら、うまく行ったみたいだよ。
- 警視庁は混乱。
- オウム真理教が起こした事件の何ひとつ、
- 糸口すらつかめなかったよ。
- そんなアホな事ある?
- 教団を逮捕したところで、
- 罪に問えるような法律もなかった。
- 死体があるわけでもないし。
- 違法な事してる証拠も見つからなかった。
- 全部溶かして消してしもた感じやな。
- 地下鉄サリン事件の後も、
- 教団は、新宿駅で青酸ガスのテロ未遂を起こしたり。
- 都庁に爆弾を仕掛けたりもしたよ。
- やりたい放題やんか。
- それでも警察は尻尾を掴むことができなかったよ。
- 教団はその間、マスコミも使って無実を訴え続ける。
- 結局、逮捕の決め手になったのは何?
- 他の件で取り調べを受けていた林郁夫(いくお)が、
- 急に自供したんだよ。
- 誰それ?
- 教団の幹部だった医者だよ。
- 急にって?
- 何があったの?
- 内部崩壊?
- 教団への不信感が爆発したみたい。
- ずっと固い態度で抵抗してたのに。
- 取り調べ中に、態度が急に変わって、警察に全面協力。
- これが決め手になって、一気に事件が解明していったんだよ。
- 林郁夫の中で何が起こったのかな?
- 良心が痛んだ?
- まだ傷が癒えてない事件の話は重くなるね。
- もっと人とか死んでない話がいい。
- 東京にめっちゃ大きい洞窟あんの知っとる?