- 霞が関ついたよ。
- あれなに?
- 東京駅だよ。
- ちがうよ。
- どう見ても東京駅だよ。
- 東京駅やな。
- だからちがうってば。
- 法務省旧本館だよ。
- 東京駅かおもった。
- これいつ建てたの?
- 1895年。
- 明治時代か。
- やっぱ日本の建物といえば、
- こういう感じだよね。
- お城か。
- あとお寺?
- 神社とかもだ。
- 江戸時代まではみんなこんな感じさ。
- チョンマゲと刀や。
- その江戸幕府を終わらせて、
- 明治維新を起こしてから、
- 世界の中の日本を作り始めるんだけど。
- まー、その時の日本人ときたら、
- 島の向こうに国がある事すらわかってない。
- それ言い過ぎやろ?
- 隣の藩ですら外国みたいに思ってた時代さ。
- 急に開国しましたと言われても、
- 海の向こうまで気持ちがついていかないさ。
- 庶民はそうだったかもね。
- でも明治政府を作った人達は、
- 言葉も通じない海の向こうの人達と、
- 取引していかないといけない国を作っちゃった。
- そう言われると、超心細いかんじ。
- 外の前に、内側をなんとかしないと。
- まずやる事は?
- 武装やな。
- 怖いこと言うね、薬袋は。
- まあ、それも無視できないとは思うけどさ。
- 法律や憲法がない事には、
- わたしも近代国家ですって主張できないじゃん?
- そりゃあね。
- そのために、明治政府は、
- アメリカとかイギリスとかフランスの政治を猛勉強さ。
- 受験勉強してた時のこと思い出すよ。
- わたしは殆ど勉強せんかった。
- ふたり、同じ大学だったよね?
- うん。
- 猛勉強した小机と、何もしない薬袋が、
- 同じ学力だということはよくわかった。
- うるさいな、話を進めてよ。
- 化学や技術のことはプロイセン王国から学んだよ。
- プロテイン?
- なにそれ?
- プロイセン王国。
- 今のドイツだよ。
- 政治や法律もドイツから学ぶ事にしたよ。
- ファシズム?
- それはナチス党だろ?
- プロイセン王国って色んな政治主義が生まれてんだよ。
- あとさ。
- 近代化に合わせて建物も近代化したいじゃん?
- 形から入るのは大事なことやな。
- そして招いた建築家もドイツ人だった。
- なにもかもがドイツドイツ。
- ヘルマン・エンデと、
- ヴィルヘルム・ベックマン。
- ヘルマン・エンデの写真はないん?
- なかったよ。
- ベックマンだけでいい?
- ワシみたいな顔や。
- 目元が引き締まってるね。
- ここ霞が関周辺に、
- 政府機関の建物を集中して建てようとするんだけど。
- ちょっとお金が足りなくてね。
- 3つしか作れなかったよ。
- なにつくったの?
- 議事堂と裁判所と司法省。
- 近代国家の三大神器やな。
- 日本人は外国人の建築技術に驚かされたさ。
- なんてったってこの建物、
- 関東大震災(1923年)でもビクともしなかった。
- そりゃすごい。
- じゃあ、この建物明治時代から残ってるの?
- いや、太平洋戦争中にアメリカがぶっ壊しちゃったよ。
- 爆撃で?
- やっぱアメリカはドイツが嫌いなんや。
- ぜんぜん関係ないからね、それ。
- 1948年に復元したのがコレなんだよ。
- あ、警視庁が隣にあるやんか。